四次元ことばブログ

辞書と言葉に関するあれこれを、思いつくままに書き記しておくことにしました。

ぼくのかんがえたさいきょうの今年の新語2019

本日、三省堂が主催する「今年の新語2019」の結果が発表されます。公募によって集めたことばの中から、「2019年を代表する言葉(日本語)で、今後の辞書に採録されてもおかしくないもの」トップ10を決める催しです。

 

僕は一「今年の新語」ファンとして一昨年昨年とランキングを予想してきたのですが、ほとんど当てられなくて悲しいし、予想することに何か意義があるのかと問われるとまあ正直特に意味はありません。というわけで、今年は趣向を変えて、「ぼくのかんがえたさいきょうの今年の新語2019」のランキングを作ることにしました。あんまり意味がないことには変わりませんが、予想が当たる当たらないの話ではなくなるので、僕が悲しくならないという利点があります。

 

とはいいましても、選考の基準は本家「今年の新語2019」にのっとり、すでに『三省堂国語辞典』『新明解国語辞典』『三省堂現代新国語辞典』『大辞林』に乗っていることばや、めちゃめちゃに新しくてほとんどの人が知らないことばは避けます。また、百科語を入れたりとか、語種のバランスに若干配慮したりとか、そういう小細工も施して、本家っぽい感じはなるべく損なわないようにしたいと思います。

 

語釈はいつもはそれぞれの語釈のパスティーシュをやっていたのですが、数多のシメキリに追いかけられていてそれどころではないので、今年はテキトーです(フォーマットは三国っぽくしてあります)。

 

では10位から。

 

10位 ASMR

エー エス エム アール[ASMR](名)〔←Autonomous Sensory Meridian Response〕心地よい音声を聞いたときに感じる、ぞくぞくするような快感。「―動画」

よく流行り、定着しました。現象自体はなんとなく知られていたと思いますが、名前がついたことで輪郭がはっきりしたパターンです。

 

9位 まである

まで ある(連語)〔俗〕…ということがありうる。…とさえ考えられる。「そんなに叱ったら泣く―よ」 

変な言い方だなあと思っていたら、今年はテレビでタレントが使っているのも聞きました。いよいよ定着したようです。でもまあ、数年前からよく見るようになっているので、この順位です。

 

8位 にわか

にわか[(×俄か)]ニハカ(名)初心者。また、ファンになって日の浅い人。

「にわか」単体で初心者などを意味する用法です。アクセントは頭高でしょうか。ラグビーワールドカップの「にわかでいいじゃないか」で広く知られました。個人的には「にわか」といえば小走やえさんで(知らなければググってね)、10年近く前から馴染みがあるのですが、認知されたのは今年ということで。

 

7位 ○○散らかす

ちらか・す[散らかす](他五)〔動詞のあとについて〕①きたならしく…する。「はげ―」②ひじょうに…する。「切れ―」

最近、「散らかす」が造語力を得て、従来はつかなかった動詞にも複合するようになりました。当初は「ハゲ散らかす」のようにきたならしい印象を表していましたが、転じて「キレ散らかす(激しくキレる)」「すべり散らかす(ギャグがめちゃめちゃにすべる)」など、単に強調する意味に拡大しています。

 

6位 トレンドブログ

トレンド ブログ(名)〔和製 trend blog〕話題の人や物に関する情報を寄せ集め、閲覧数を稼いで広告費を得ることを目的とするブログ。

百科語枠です。悪質なデマの起点となり、訴訟も提起されるなど、社会問題として認知されるようになりました。

 

5位 液体ミルク

えきたい ミルク[液体ミルク](名)液体の状態で販売されている、乳児に飲ませるミルク。乳児用液体ミルク。

こちらも百科語枠。日本では昨年8月の法制化で解禁され、今春、明治やグリコが販売を開始しました。ことばとしても、ミルクはふつう液体なのに「液体ミルク」なんて名前で、しかもレトロニムでもないという、面白い特徴を持っています。語釈は「液体の状態で販売されている」というのがミソです。

 

4位 反社

はん しゃ[反社](名)←反社会的勢力。暴力団

少し前から一部で使われてはいたのですが、吉本興業の闇営業問題のおかげで一挙に広まり、ニュースの見出しなどでもふつうに用いられるようになりました。それだけだったら下位打線でもよかったのですが、こんどは「桜を見る会」の問題で再び脚光を浴びることに。これは予想外でした。言いやすいし便利なことばなので、定着するでしょう。

 

3位 すこ

すこ(形動ダ)〔俗〕好きであること。「ほんと―」[動]すこる(他五)。

「好き」をふざけてこう言うようになりました。タイプミスから生まれていると思われますが、口頭でも使われ、言語変化の新しい形の例として注目に値します。動詞化して「すこる」となり、文章語的な「好む」「好く」に相当する口頭語として、日本語の隙間に入り込んできました。今年、ゲーム「アイドルマスターシンデレラガールズ」に、これを口癖にするアイドル「夢見りあむ」が登場しています。

 

2位 呪い

のろい[呪い]ノロヒ(名)人の考えを制約する不合理な規範意識や、それを植え付ける発言など。呪縛。「親のことばが―となる」

「呪う」というのは辞書では「恨みのある人などに不幸な事が起こるように神仏に祈る」(『大辞林』第4版)と説明されています。ところがその名詞形の「呪い」は、最近では、強い立場の人が弱い立場の人に不合理な規範意識を押し付けることばを意味していうことがぐっと増えました。比喩的な用法なのですが、そうと感じさせない力があります。

 

昨年からは法政大教授の上西充子の呼びかけでハッシュタグ「#呪いの言葉の解きかた」が広まり、そういった呪縛を可視化し、抗おうという動きが見られました。単行本『呪いの言葉の解きかた』が今年出ています。

 

大賞 なんなら

なん なら[(何なら)](副)それどころか。なんだったら。「デパートで売ってるし、―通販でも買えるよ」

 

個人的には、今年は「なんなら」の年でした。

 

「なんなら」は従来、「つごうによっては。おのぞみなら」(『三省堂国語辞典』第7版)という意味で、「なんなら手伝いましょうか」のように、人に何か提案するときなんかに使われたことばです。ところが近年、前の文脈を受けて、さらにこんなこともあるぞと付け加える用法が徐々に広まってきました。

 

自分がキャッチしている例で早いのは2003年のもので、ここでは「なんだったら」の形でした。僕がこの用法にはっきり気づいたのは一昨年くらいで、それからは意識して用例を集めていますが、最近見かけるのはほとんど「なんなら」の形です。正直、あまりにくだけた、ほとんど誤用みたいなものかなと思っていたのですが、今年に入って一般向けの小説で立て続けに複数の例を見かけ、これは新用法として考えざるを得ないなと思ったのです。

 

ついでに選外も。

 

選外 タピる・タピ

「タピる」は、投稿数はトップだと思うのですが、すでに『大辞林』(デジタル版)に載っているので、入選はなりません。しかし、時代を映すことばとして記録しておきたいところです。注目すべきは「タピ」で、「タピ活」のように造語成分になったり、「タピ飲んだ」のように「タピ」単独でも使われるようです。ただ、これがタピオカブーム以降も継続して使われるかは未知数で、選外とします。

 

選外 キャッシュレス決済

「キャッシュレス」の投稿数も多かったのですが、当然辞書に載っています。「キャッシュレス決済」も単純な複合語で、この形で辞書に載せるのもあまり一般的ではないでしょう。ただ、こういう複合が普通になったのは最近で、定着したのは今年といっていいと思うので、選外として記録にとどめておきます。

 

じゃ、眠いので寝ます。

 

▼選考ラインナップ

新明解国語辞典 第七版

新明解国語辞典 第七版

 
三省堂国語辞典 第七版

三省堂国語辞典 第七版

 
三省堂現代新国語辞典 第六版

三省堂現代新国語辞典 第六版

 
大辞林 第四版

大辞林 第四版