四次元ことばブログ

辞書と言葉に関するあれこれを、思いつくままに書き記しておくことにしました。

「今年の新語2018」を予想してテンションあげみざわ

 

冬だ! 年の瀬だ! 今年の新語だ!

 

こんにちは。今年の新語ガチ勢のながさわです。

 

いよいよ「三省堂 辞書を編む人が選ぶ『今年の新語2018』」の選考発表会が明後日に迫ってまいりました。しかも今年の選考発表会はあの超人気イベント「国語辞典ナイト」とのコラボレーションということで、期待に胸が躍(ダンス)っちまってます。

 

昨年はランキングの予想にも挑戦したのですが、的中したのは10語中1語+選外1語という惨憺たるありさまで、この一年間は辞書の上に臥し用例カードを嘗めて復讐に燃えていました(昨年の予想結果)。

 

そんな中、ランキングの予想を難しくする事象が二つ発生し、今年の新語界隈に激震が走りました。

 

ひとつは、ラインナップに『大辞林』が加わったこと。『大辞林』は「スーパー大辞林3.0」としてデジタル版の更新に力を入れており、かなり積極的に新語を追加しています。

 

もうひとつは、ラインナップ辞書の一冊『三省堂現代新国語辞典』が改訂され、多くの新語が立項されたこと(参考:高校生向け『三省堂現代新国語辞典』第6版がヤバいから高校生じゃなくても買え - 四次元ことばブログ)。

 

「今年の新語2018」は、「この2018年を代表する言葉(日本語)で、今後の辞書に採録されてもおかしくないもの」と定義されており、すでに辞書に採録されていることばは基本的には選考の対象外です。

 

こいつは入選間違いなしだぜ! うっひょいひょい!」とはしゃいだことばがことごとく「スーパー大辞林3.0」や『三省堂現代新国語辞典』第6版に立項されているのを目の当たりにした私は頭を抱えました。

 

「なにしてくれとんねん……」

 

しかし、出たばかりの辞書に載ったことばを選考から排除してしまうと、その年に広く定着したことばであるのに「今年の新語」のランキングから漏れてしまう語が少なからず出てきてしまいます。これは年を追って新語の定着という現象を観察する「今年の新語」の企図を骨抜きにすることになりかねません。『三省堂現代新国語辞典』第6版に載ったことばでも、あえて選外とすることはないものと考えます。

 

大辞林』のほうについては、ラインナップに加わったのはあくまで紙の『大辞林』第3版であって、デジタル版の「スーパー大辞林3.0」ではありません。こんなやつは知らん。そういうことにします。

 

前置きが長くなりました。いよいよランキングの予想を公表します。今年も「国語辞典風味」の語釈を勝手に書いてみました。暇とか言うな。

 

参考までに、その語を「スーパー大辞林3.0」が立項している場合(2018年12月現在)は「」、『三省堂現代新国語辞典』第6版が立項している場合は「」の記号を補説の末尾に付しました。

 

10位 クラウドファンディング

三省堂国語辞典』風

クラウド ファンディング(名)〔crowd funding〕不特定多数の支援者から資金を集めること。クラファン。

昨年もランクインを予想しましたが、入選なりませんでした。今年『三省堂現代新国語辞典』も立項したため、完全に定着をみたものと判断します。「クラファン」という省略形も定着しつつあり、記録しておきたいところです。略称の登場は選考で重視されるポイントにもなっています。

 

9位 高プロ

大辞林』風

こう プロ かう―[0]【高プロ】〔「高度プロフェッショナル制度」の略〕高度に専門的な業務に従事し一定以上の年収がある雇用者を労働時間規制の適用除外とする労働制度。ホワイトカラー-エグゼンプション。正式名、特定高度専門業務・成果型労働制。

6月に働き方改革関連法が成立し、来年4月からの導入が決まりました。「定額働かせ放題」だとの批判が根強くあり、今後も報道などで頻繁に耳にすることになるのは確実です。

 

8位 沼

新明解国語辞典』風

ぬま[2]【沼】深追いを繰り返して のめり込んでしまう趣味。〔俗語的表現〕「レンズ―[3]〔=カメラのレンズに凝る趣味〕・男性アイドルの―にはまり身を滅ぼした」

初出は古く、1990年代からカメラ愛好家の間では「ライカ沼」のように使われていました。ここ数年、その他のさまざまな趣味についても使われるようになり、今年からはNHK Eテレで「沼にハマってきいてみた」という番組も始まりました。もはやネット用語を脱し、日常的な俗語となっています。

 

7位 フレイル

大辞林』風

フレイル[2]〔frailty〕加齢により生活機能が低下した、要介護に至る前の状態。適切な治療により改善できる。虚弱。

日本老年医学会が2014年に提唱したことばです。若年世代にはなじみが薄いかもしれませんが、病院の張り紙や健康番組などで目にすることがぐっと増えました。若者ことばばかりランクインするのも何ですし、なにより高齢化社会の中で重要なことばです。

 

6位 eスポーツ

三省堂国語辞典』風

イー スポーツeスポーツ](名)〔e-sports←electronic sports〕コンピューターゲームでの対戦を、競技として行うもの。エレクトロニック スポーツ。

今年は、一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)が設立され、またアジア競技大会eスポーツがデモンストレーション種目に採用されるなど、eスポーツの本格的な普及が始まった年として記憶されることでしょう。ランクインにふさわしいことばです。

 

5位 きれきれ

三省堂現代新国語辞典』風

きれきれ〖切れ切れ〗〈形動〉[「キレキレ」とも書く]動きや頭の働きの切れがよいさま。「―の変化球・彼女のダンスは―だ」[類]スマート

デジタル大辞泉」にはある語ですが、紙版の『大辞泉』第2版(2012年)にはなく、この間に広まった語であると思われます。昨年注目を浴びた大阪府登美丘高校ダンス部のダンスの形容としてよく用いられたほか、人物評として週刊誌でも使われました。朝日新聞のデータベースで見ても確実に例が増えています。

 

4位 ~ファースト

三省堂現代新国語辞典』風

ファースト[first]〈接尾〉第一。最初。「レディー―・自分―の議員・肉―で食べよう」[二〇一六年の米大統領選挙でドナルド・トランプが「アメリカファースト」をとなえたことなどから広まり、「○○ファースト」という造語がさまざまに行なわれるようになった]

昨年も4位に予想しました。「レディーファースト」というときの用法と同じですが、「アメリカファースト」や「都民ファーストの会」から造語力を強め、さまざまなことばにつくようになりました。今年も例を多く見かけ、流行語の域を脱し定着したとみます。この経緯は「今年の新語2017」にランクインした「○○ロス」と非常によく似ています。

 

3位 マウンティング

新明解国語辞典』風

マウンティング[0]―する(自サ)〔mounting〕[一]哺乳類の雄が、交尾の際に雌の上に馬乗りになる行為。サルでは、雄同士の順位確認のためにも行なう。背乗り。[二]「マウンティング[一]」から転じて、他人に対し、知識や経験を誇示したり 地位が上であることを明言したり して、自分のほうが偉いんだぞという態度を取ること。マウント。「彼らはたかが球蹴りや球投げの能力にもとづく人物評価を普段の日常生活にも持ち込み、しばしば私に―を加えてくる」

[二]の意味が新用法です。瀧波ユカリ・犬山紙子『女は笑顔で殴りあう マウンティング女子の実態』(2014年)が早い例ですが、近年、急速に一般化した感があります。「Googleトレンド」で検索数の動向を見ると、この本が出た2014年にピークがあり、その後いったん落ち着いてから現在まで漸増傾向にあり、定着のようすが見て取れます。「マウント」とどちらを本見出しにするか迷いましたが、個人的な採集例の多さからこちらにしました。

 

2位 バズる

三省堂国語辞典』風

バズ・る(自五)〔←buzz〕〔俗〕ある投稿がネット上で大きな話題になる。「ツイートが―」

昨年は大賞に予想したのですが、全く触れられませんでした。まだ業界用語といった感じが強かったからでしょうか。今年はTwitterでの投稿数も非常に多く、また時代を反映することばでもあり、無視はできないはずです。大賞も狙えることばですが、『三省堂現代新国語辞典』第6版が立項したことで新語感が薄れたので、2位としました。

 

大賞 映え

新明解国語辞典』風

ばえ[2]【映え】―な 強烈な印象のために、写真に撮った際などに引き立って見える(と思われる)こと。「―を狙う・筋骨隆々で、―な彫刻」

 三省堂国語辞典』風

ばえ[映え](名・形動ダ)〔俗〕映えること。特に、写真映えすること。はえ。「―なニット」[動]映える(自下一)。

 三省堂現代新国語辞典』風

ばえ【映え】〈名・形動〉引き立って見えること。「シャンパンタワーは―が大事・―なブランケットで寝相アート」[くだけた言い方。多く、写真映えすることにいう。「インスタ映え」などの「映え」が独立して使われるようになったもので、動詞化して「映える」、強調して「映え映え」ともいう]

 大辞林』風

ばえ[0]【映え】(名・形動) 俗に、見ばえがすること。「―なスイーツ」〔「SNS映え」などの「映え」が単独で用いられたもの〕

 「はえ」じゃありません。「ばえ」と読みます。昨年末ごろからさかんに用いられるようになり、流行語となった「インスタ映え」などにかわって今年一挙に広まりました。

 

あることばの語頭が濁音化することはときどきありますが、この「ばえ」は、「はえ」が変化したというより、「インスタ映え」「SNS映え」などで連濁した形が取り出されたという稀有な特徴を持っており、注目に値します。また、形容動詞化しているのも重要で、これは濁らない「はえ」にはない性質です。

 

意味的にも、従来の「はえ」「はえる」と違い、写真に撮ったときに引き立つという「インスタ映え」にあったニュアンスを引き継いでいるようです。動詞化した「ばえる」や、重ねて強調した「ばえばえ」も生まれています。SNS時代を象徴することばでもあり、2018年をしめくくる大賞を与えるのにふさわしい一語です。

 

勢い余って「選外」も予想しましょう。

 

選外 VTuber

2018年に注目された新しいモノとして見逃せませんが、一過性の流行に終わるかもしれません。

 

選外 ださかっこいい

「U.S.A.」を念頭に置いた流行語という性質が強く、また以前からいるお仲間の「きもかわいい」「エロかっこいい」なども小型辞書には載っていませんので、選外です。

 

今年は打率3割(3語の的中)を目標にしています。少ねえと思われるでしょうが、難しいんですよ、これ。

 

最後まで予想ランキングに入れるかどうか迷った語たちも、おまけで紹介しておきます。

圧〔=迫力〕/おしゃ〔←おしゃれ〕/課金〔=支払うこと〕/完コピ/ギガ〔=データ通信量〕/警察〔=間違いを指摘する人〕/サコッシュスマートスピーカー/~勢〔ガチ勢など〕/ちな〔←ちなみに〕/チル/トーンポリシングドラレコ爆誕/秒で/ブラックフライデー/マンスプレイニング/もふもふ/リアタイ/リップシンク/わちゃわちゃ/ワンオペ

 

コーディガン? 何ですかそれ?

 

▼選考ラインナップ
新明解国語辞典 第七版

新明解国語辞典 第七版

 
三省堂国語辞典 第七版

三省堂国語辞典 第七版

 
三省堂現代新国語辞典 第六版

三省堂現代新国語辞典 第六版

 
大辞林 第三版

大辞林 第三版