四次元ことばブログ

辞書と言葉に関するあれこれを、思いつくままに書き記しておくことにしました。

【事件】精選版日本国語大辞典が無料! 急いで引け!

 

精選版 日本国語大辞典』(以下、『精選日国』)という辞書があります。

 

精選版 日本国語大辞典 全3巻セット

精選版 日本国語大辞典 全3巻セット

 

 

3巻に及ぶ大部の辞書で、定価で揃えると45,000円(税別)になります。うまい棒が4,500本買える計算です。

 

これがなんとこのたび

 

100%OFF

 

で使えるようになりました。

 

は?????? 罠かな?

 

特別な手続きは何も必要ありません。「コトバンク」というサイトにアクセスするだけ。

 

試しに「ぬるでおおみみふしあぶらむし」ということばを検索してみてください。

 

kotobank.jp

 

『精選日国』の解説が表示されました。これでいつ白膠木大耳五倍子油虫について知りたくなっても大丈夫です。『精選日国』は、歴史的なことばを中心に30万もの項目を収録しているのです。

 

コトバンク」は、出版社などで編集されている信頼のおける辞事典を横断検索できるすごいサービスです。ネット上には、どこの馬の骨とも知れない輩が作った辞書みたいなやつがあちこちに転がっていますが、賢明な読者諸氏は「コトバンク」を使いましょう。

 

この「コトバンク」では、以前から国語辞書として「デジタル大辞泉」および『大辞林』第3版が引けたのですが、ここにこのたび『精選日国』が仲間入りしたかっこうです。

 

えっ、他に辞書が2冊も入ってるの? また増やして何の意味が……。

 

 

 

 

 

喝!!!!!!!

 

 

 

 

 

『精選日国』は、他の辞書にはとうてい真似できない優れた特徴を備えているのです。それは、そのことばが用いられた最古の実例を示しているということ(もちろん、確認できている中でということになりますが)。

 

「『耳触りがいい』は誤用だ」と指摘してくるうるさい奴がいたとしましょう。あなたはすかさず『精選日国』で「みみざわり」を引いてみせます。

 

kotobank.jp

 

「耳触り」には1807年の用例があることがわかります。一方の「耳障り」には1823〜44年の例が示されており、「耳触りがいい」より時代が後です。うるさい奴は帰りました。

 

「『びびる』は平安時代からあることばだ」という言説があります。本当かな? と思ったら、『精選日国』の出番です。

 

kotobank.jp

 

最も古い例は江戸時代にあることがわかります。この段階で、平安時代説はマユツバかもしれないぞと疑うことができます(詳しくは「びびる」の嘘語源を正す 「平安時代から」はガセ - 四次元ことばブログ)。

 

さあ、あなたも『精選日国』で充実した日本語ライフを!

 

すこし真面目な補足

『精選日国』は、『日本国語大辞典』第2版(以下、『2日国』)から項目・用例を抜粋して編集された辞書です。『2日国』には50万項目・100万用例が収録されているのに対し、『精選日国』は30万項目・30万用例と、相当圧縮されています。

 

特に用例が大幅に削減されているのは惜しいところです。実例の豊富さこそが『2日国』の要だからです。『精選日国』に残されている用例はいわゆる「初出例」が中心で、『精選日国』はとにかくその語が文献上いつごろから現れるのかを知りたいという要請に特化したバージョンと捉えることもできます。

 

では、『2日国』を使えるユーザー(紙版のほか、JapanKnowledgeで電子版が提供されています)は『2日国』だけを引けば済むのかというと、そうでもありません。『精選日国』には、『2日国』刊行後に新たに発見・報告された用例約5,000および新語など約1,500項目が追加されているためです。

 

つまり、ある語について『日本国語大辞典』の見識を知るためには、『2日国』と『精選日国』を相互補完的に利用せねばならないというのが現状です。これはデジタル版の『2日国』が『精選日国』の記述を吸収するか、あるいは『日本国語大辞典』第3版が出るまで(出るのか?)は解決しないでしょう。

 

『精選日国』が「コトバンク」に搭載されたという知らせが出ると、私のTwitterのタイムラインでは、JapanKnowledgeなど良質な有料辞書サービスへのよくない影響を懸念する声が噴出しました。『精選日国』が無料で引けるのに、わざわざ『2日国』などのためにお金を出す人がいるだろうかという危惧です。これについては、上記のような理由で『精選日国』だけでは足りない(『2日国』だけでも足りない)ということをいかにして周知するかというのが課題になるのだと思います。

 

私は、『精選日国』の情報に誰もが簡単に触れられる状況になったことを、素直に歓迎しています。「コトバンク」の内容へはGoogleなどの検索エンジンから直接アクセスすることができます。これまで『日本国語大辞典』の存在を知らなかった人でも、ことばの歴史についての正確な知識にアクセスできるようになったのです(辞書ファンは忘れがちな事実ですが、ことばについて調べる際に『日本国語大辞典』を引くという手段があることは、大多数の人には知られていません)。ネット上に氾濫する誤解にもとづく間違った情報の蔓延に一定の歯止めもかけるでしょう。

 

競合する有料の辞書やサービスがこれまで以上に厳しい戦いを強いられることになるのは必定ですが、これを契機に辞書がさらなる進化を遂げることを期待しています。

 

ちなみに、『精選日国』は物書堂製のアプリが秀逸で、私はこちらを常用しています。

精選版 日本国語大辞典

精選版 日本国語大辞典

  • 物書堂
  • 辞書/辞典/その他
  • ¥7,800

 

【2019年3月5日追記】上記のアプリを含む物書堂製の辞書アプリを統合した「辞書 by 物書堂」がリリースされました。本アプリから、App内課金により『精選日国』が購入できる仕様に変更されています。

辞書 by 物書堂

辞書 by 物書堂

  • 物書堂
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  • 無料