四次元ことばブログ

辞書と言葉に関するあれこれを、思いつくままに書き記しておくことにしました。

ぼくのかんがえたさいきょうの今年の新語2021

俺的「今年の新語」を勝手に決める会が今年も脳内で厳かに開催され、厳正なる審議の結果、「ぼくのかんがえたさいきょうの今年の新語2021」ベスト10が選定されました。

 

なお、今年は12月に『三省堂国語辞典』の改訂版が発売されることが決まっており、前評判では「今年の新語」入選が有力視されていた「マリトッツォ」「デジタルトランスフォーメーション」などの新語が立項されることが明らかになっています。今回は、これら『三省堂国語辞典』第8版への収録が公表されている語は選考の対象外としました(本物の「今年の新語」がどういうルールで選考されているかは全然知りません)。

 

今年は、語釈のフォーマットは『大辞林』っぽくしてみました。多義語でグレーになっている部分は『大辞林』第4版からの引用です。

 

これが「ぼくのかんがえたさいきょうの今年の新語2021」じゃい!!

 

10位 切り抜き

きり ぬき[0]【切り抜き】①切り抜くこと。また、切り抜いたもの。「新聞の―」②「切り抜き絵」 「切り抜き細工」の略。③〔動画共有サイトで〕他者の動画の見どころを抜粋し、短く編集すること。また、その編集した動画。切り抜き動画。

 

YouTubeTikTokなどで、他人の動画から一部を抜き出して投稿する「切り抜き」が盛んに行われるようになりました。新聞の切り抜きと意味的には近いですが、動画に使うのは辞書的には別義とみていいでしょう。『新明解国語辞典』の「切り抜く」の語釈なんて「新聞など平面状の物の(内部の)一部分を切り取る」だし。関連して、逮捕者が出た「ファスト映画」も話題でした。

 

9位 有観客

ゆう かんきゃくいうくわん―[3]【有観客】スポーツの試合やイベントなどの会場に、観客を入れること。⇔無観客。「―ライブ」

 

コロナ禍で無観客のイベントが普通になって、レトロニムとして生まれた言い方です。今年は特にオリンピックについて有観客とするか無観客とするかの議論があり、相当耳にしました。今後もしばらくはイベントごとに有観客か無観客か明示されることでしょう。

 

8位 キャンセルカルチャー

キャンセル カルチャー[5]〖cancel culture〗その人の過去の不適切な言行を理由として、公の立場から退くよう求める社会的風潮。

 

こちらもオリンピックをめぐる騒動に関連して日本でもよく言及されました。差別の許されない社会の中で、息の長いことばになりそうです。

 

7位 つよつよ

つよ つよ[0]【強強】[一](副)非常に強いさま。きわめて丈夫なさま。「―として死に気もなかりければ/今昔物語集二八[二](名・形動)とても強いこと。非常にすぐれていること。〔普通「つよつよ」と書く〕⇔弱弱。「顔面―」「―絵師」

 

大辞林』には載っているのかと思いきや、これは古語で、副詞です。約1000年の断絶を経て、形容動詞として復活を遂げた稀有な例です。数年前からネットスラングとしてそこそこ使われていますが、今年はtwitterで「つよつよ絵師」のハッシュタグが盛り上がったのと、文芸誌で活字になっているのを見たのとで、定着したと考えました。

 

6位 ヤングケアラー

ヤング ケアラー[4]〖young carer〗本来は大人がするべき介護・看護・家事などのケア労働を日常的に担わざるを得ない立場に置かれている子供。

 

今年、ニュースで頻繁に報じられ、国や自治体が支援に乗り出す(または、その方針を示す)など、社会問題として大きく注目されました。

 

5位 黙―

もく【黙】(接頭)主に行為を表す漢語に付いて、飛沫感染防止のためにそれを黙って行うことを表す。「―食」「―浴」「―煙」

 

「黙食」は次の『三省堂国語辞典』に載ることがわかっていますが、「黙」は造語力を獲得し、他のいろいろな字にもつくようになりました。上の語釈では保守的に「漢語に付」くとしましたが、「黙蒸(もくむす)」(=黙ってサウナに入る)なんてのもあります。『大辞林』だと、接頭語じゃなくて漢字項目にまとめるかもしれません。

 

4位 解像度

かいぞう どかいざう―[3]【解像度】①ディスプレーの表示や印刷などの細かさの程度。ディスプレーでは横方向・縦方向の表示ドット数の積で、プリンターでは一㌅あたりに印刷できるドット数で表す。②転じて、広く精緻さの度合い。「知らないことを知ると、世界の―が上がる」「分析の―を向上させる」

 

比喩なので初出は前世紀まで遡りそうなのですが、最近ものすごい頻度で使われています。華々しさがないからか新語界隈(?)ではあまり注目されていませんが、個人的には一押しです。本家のランキングには入らなそうな感じですが、入選してほしいなあ。

 

3位 ガチャ

がちゃ[1]〔普通ガチャと書く〕①カプセル‐トイの販売機の通称。②ソーシャル‐ゲームでアイテムやカードを購入するシステムの一形式。数種類の中から何があたるかわからないもの。③転じて、当たり外れを自分では選べないもののたとえ。「親―」「上司―」

 

個人的には数年前から馴染みがあってそんなに今年っぽさは感じないのですが、今年になって報道でたびたび取り上げられるなど世間の注目度が高まったのは確かで、twitterを見る限りでは「今年の新語」への投稿数も(「親ガチャ」の形で)かなり多かったようです。上位にランクインされていいことばでありましょう。

 

2位 人流

じん りゅう―りう[0]【人流】人の流れ。「―が増える」「―を抑制する」

 

官庁の専門用語が、会見などを通して一般に漏れ出たものです。初めて耳にしたときは変わった言い方だなと感じたものですが、今や誰もが知るところとなりました。辞書に載せるべきことばです。

 

大賞 しか勝たん

しか かたん【しか勝たん】(連語)体言またはそれに準ずるものに付き、自分にとってそれに勝るものはない意を表す。主に若者が用いる。「推し―」

 

SNSでの初見は2016年頃だそうですが、今年は日向坂46のシングル曲「君しか勝たん」がリリースされ、『キングオブコント2021』ではお笑いトリオのジェラードンがネタに用い、東京ガスがテレビコマーシャルで「切り替えたやつしか勝たん」と伊藤沙莉に歌わせるなど、認知度が高まったことをうかがわせる事象が多発しました。

 

「○○しか勝つことができない」を「○○しか勝たん」と表現するのは文法的にやや破格であり、ぱっと見では意味が取りづらいにもかかわらずこれだけ広まっていることは非常に面白く、大賞にふさわしい貫禄があります。

 

宇佐見りん『推し、燃ゆ』の芥川賞受賞をはじめ、「推し活」「推し事」にスポットライトが当たった2021年に、「推し」関連の語句が大賞を受賞するのも世相を反映していていいではありませんか。

 

というわけで、今年は「しか勝たん」しか勝たん!

 

また、選考会(脳内)で話題になったものの、惜しくも選外となったことばも紹介します。

 

選外 ゴン攻め、ビタビタ

東京オリンピックスケートボードの解説で、プロスケートボーダーの瀬尻稜氏が用いたことで一躍注目を集めた語です。多くの人が口にするところまではいっていないということで、選外に。

 

選外 おじさん構文

専門的な意味での「構文」ではないことや、「おじさん構文」が発生する現象自体は面白いのですが、このことばが辞書に残るほどとは現時点では考えにくいので、惜しくも選外です。

 

賢明なる読者諸氏は、こんな偽物ではなく、明日公表の本物の「今年の新語2021」をお楽しみに!