四次元ことばブログ

辞書と言葉に関するあれこれを、思いつくままに書き記しておくことにしました。

「今年の新語2017」を予想してみた卍

あす12月3日、辞書出版社の三省堂が主催する「今年の新語2017」のベスト10が発表されます。

 

「今年の新語」は、私なりにかみくだいて説明すると、「今年、辞書編纂者が『普通の国語辞書に載せてもいいかな』と思った言葉」のランキングです(ちゃんとした選考基準は公式サイトをご覧くださいませ)。できたてほやほやの新語や、一時的な流行に終わりそうな語は入選しにくく、今後も長く日本語ワールドに居座るであろう語が選ばれるというのが、この企画の醍醐味です。定着のぐあいもよく観察した上で選考がなされるため、言葉に敏感な人ほど「ちょっと古いかな」と思うような語が入選することもままあるようです。

 

候補の言葉はウェブの応募フォームおよびTwitterで一般から公募されました*1。私もTwitterでアホみたいに投稿を繰り返し、その数は107件となりました。何をそんなにむきになっていたのでしょうか。

 

ここまできたら、ベスト10も予想してみたいというのが、健全な今年の新語ガチ勢というものです。

 

ところで、「今年の新語」では、入選語に「国語辞典風味」の語釈をつけて発表するのがお決まりになっています。私も勝手に書きました。

 

 

では、10位からどうぞ。

 

10位 イキる

いき・る(自五)〔「イキる」とも書く〕〔俗〕 調子づいて 偉ぶる。いきがる。「いきった奴」〔もと関西方言。二〇一〇年代に広まった〕[名]いきり。
(『三省堂国語辞典』風)

関西方言ですが、テレビでお笑い芸人が使ったことなどからか、全国区になりつつあります。ネットでは「イキリオタク」が流行語になりました。「いきがる」の略であるという説もありますが、「いきり立つ」の「いきる」でしょう。歴史ある言葉ですが、昨年も江戸時代からある「ゲスい」がランクインしています。

 

9位 ギガ

ギガ〈名〉[←ギガバイト] スマートフォンのデータ通信で、通信速度が制限されるまでの残りの通信量。「動画を見すぎて—が減っちゃった」[単位を量とみなす用法。類例に「カロリーが高い」「億を稼ぐ」などがあるが、「ギガ」のように接頭辞のみは珍しい]
(『三省堂現代新国語辞典』風*2

ネットニュースで採り上げられるほど話題になった用法です。違和感を覚える人も少なくないようですが、昨年末ごろから通信事業者も広告などで「ギガ」を効果的に使っていました*3

 

8位 クラウドファンディング

クラウド ファンディング[5]〔crowd funding〕 事業のために必要とする資金を、インターネットを通じて一般の人から広く集めること。「ソーシャルファンディング」とも。
(『新明解国語辞典』風)

資金調達の手法として広く知られるようになってきました。略して「クラファン」と言うこともあります。現行の小型辞書にある「クラウド*4」はcloudで雲のこと。一方、ここでいう「クラウド」はcrowdで、群衆のことです。「クラウドソーシング」の「クラウド」もcrowdです。今後の辞書の「クラウド」にはcloudとcrowdの両方が説明されることになるでしょう。

 

7位 キュレーション

キュレーション(名)〔curation〕 特定のテーマにそった情報を集めること。「—サイト」
(『三省堂国語辞典』風)

キュレーションサイトは、今やネットメディアの重要な一角を占めるようになりました。昨年末、多くのサイトが権利侵害の指摘をうけ閉鎖されたのも記憶に新しい出来事です。選考委員の飯間浩明氏が今年発行の著書で「『キュレーションサイト』または『まとめサイト』と言われるウェブサイトをよく目にするようになりました*5」と書いているのにも注目です。

 

6位 ブラック

ブラック[2]-な〔black〕 企業や職場で、従業員に違法な長時間労働が強いられたり ハラスメントが常態化したり していて、人権が侵害されている△様子(こと)。「—△企業(バイト)/その会社が—かどうかを見極めるのは難しい/表向きは優良企業だが、—な部署も点在しているそうだ」〔広義では、過酷な任務を課せられる家庭や学校などについてもいう〕
(『新明解国語辞典』風)

人権に関わる重要な語であり、今後の辞書には必ず載ることになるはずです。デジタル版の大辞泉大辞林には「ブラック企業」などの形で立項されていますが*6、単語としても用いますし、形容動詞にもなっています。内田良『ブラック部活動』、笹山尚人『ブラック職場』など、関連書の刊行も相次いでいます。

 

5位 プレミアムフライデー

プレミアムフライデー〈名〉[和製英語 premium Friday] 月末の金曜日の退社時間を午後三時に早め、個人消費を喚起しようという試み。また、その金曜日。プレ金。[経済産業省経団連などが主導し、二〇一七年二月から実施]
(『三省堂現代新国語辞典』風)

今年から実施されました。官製の言葉で、いまひとつ盛り上がりに欠ける印象もありますが、いちおう定着の見込みはあります。

 

4位 ファースト

ファースト(造語)〔—ファースト〕 最優先。第一主義。「アメリカ—・自分—の議員」
(『三省堂国語辞典』風)

要は「レディーファースト」なんかと一緒で、まるきり新しい用法というわけでもないのですが、トランプ米大統領の「アメリカファースト」、小池都知事の「都民ファースト」などから流行語になり、「政権ファースト」「患者ファースト」「金持ちファースト」……と、その場その場でさまざまな言葉にくっつくようになりました。

 

3位 ワンオペ

ワンオペ[0]〔和製英語 ←one+operation〕 〔本来なら複数人でする必要があるのに〕ひとりで仕事や育児などを行なうこと。「—育児[5]/あそこの牛丼屋は、深夜にアルバイトが—で働かされている」
(『新明解国語辞典』風)

飲食店の深夜営業から出た言葉ですが、育児にまで用法が拡大しました。「ひよこクラブ」は今年の6月号で「ワンオペお世話」を、12月号で「ワンオペおふろ」を特集しています。マルチプレイのゲームで使われる例もあり、今後さらに使われる場面が広がるかもしれません。

 

2位 もふもふ

もふもふ [一]〈副・自動サ変〉感触がやわらかく、心地よいようす。「—した子猫」[類]ふかふか・ふわふわ[二]〈名・形動〉やわらかくふくれているようす。「—のしっぽ・メロンパンの—」[類]ふかふか・ふわふわ[「ふわふわ」「ふかふか」に比べ、やわらかさは小さいが、あたたかみや親しみが感じられる]
(『三省堂現代新国語辞典』風)

新しいオノマトペで、ここまで定着したものは他にない気がします。発生からは10年以上経っていますが、デジタル大辞泉に「インターネットスラング」とあるように、ネット俗語という印象の強い言葉でした。ところが、今年は映画ドラえもんのび太の南極カチコチ大冒険』で使われたり、映画『パディントン2』の広告に大書されたりと、一挙に市民権を得たようすです。岩波科学ライブラリーの新刊『オノマトペの謎』の副題は「ピカチュウからモフモフまで」となっており、ここでも「もふもふ」は新しいオノマトペの代表格と見られています。

 

大賞 バズる

バズ・る[2](自五)〔「バズ《=buzz》」を動詞化した語〕 インターネット上で、特定の話題への言及が突如として多くなる。〔多く、数日もすればその話題はほとんど扱われなくなる〕「何の気なしに撮った雲の写真がバズった」
(『新明解国語辞典』風)

バズ・る(自五)〔俗〕 一時的に、インターネット上で多くの人が話題にする。「ツイートが—」

(『三省堂国語辞典』風)

バズ・る〈自動五段〉 インターネット上で、ある話題が急に多く扱われるようになる。「インスタでバズった店」[「うわさ話」を意味するbuzzから。外来語の動詞化は、他に「サボる」「ダブる」「ミスる」など多くある]
(『三省堂現代新国語辞典』風)

この企画で、Twitterでの投稿数が最も多かった語が「インスタ映え」でした。しかし、固有名詞の略称が含まれること、ごく単純な複合語であることなどから、入選はまず無理と思われます。関連して「フォトジェニック」の投稿数も抜きん出ていましたが、これは新語でも何でもなく、とっくに辞書に載っています。では、人を「インスタ映え」「フォトジェニック」に駆り立てるものは何か。それは、「注目されたい」という欲望でありましょう。誰もが情報の発信者・拡散者となれるSNS時代。一挙に耳目を集める機会が多くの一般人にもたらされました。しかし同時に、話題の中心は次々と移り変わり、注目されるのは一瞬だけ。こんな状況を的確に表した動詞が「バズる」です。デジタル版の大辞林に「バズる」が採録されたのは2014年ですが、Googleトレンドで動向を見てみると、今年から検索数が一挙に増加しているのがわかります。外来語に「る」をつけて動詞化するのは「サボる」「ミスる」「パニクる」などと同じ伝統的な造語法で、だからと言って定着するとも限りませんが、「バズる」はどうやらこれらの仲間入りを果たせそうに思えます。

 

また、「選外」として、入選を逃した語が紹介されるのも通例です。ついでなので、これも予想しましょう。

 

選外 忖度

辞書にある「〔相手の気持ちを〕おしはかること*7」のみならず、「意向に配慮する」というニュアンスを含む用法が一般化しましたが、新しい意味が生じているとまでは言いにくく、入選は逃しそうです。

 

選外 卍

投稿数は多かったようですが、使われる範囲も狭く、一時的な流行に終わりそうでもあります。

 

以上です。当たっていることを祈ります。しかしこの予想、何か意義があるんでしょうか。何もわかりません。

 

なお、本記事はあくまで「今年の新語」の選考の傾向からランキングを予想したもので、「俺が考える理想の今年の新語2017」ではありません。ご承知おきください。

 

〜おまけ・トップ10入りしてもおかしくなさそうな他の語〜

アウティング/一択/インフルエンサー/グレージュ/警察〔=間違いを指摘する人〕/コーディガン/スクショ/攻める〔=挑戦する〕/テロンチ/沼〔=はまってしまう趣味〕/バ〔=アルバイト〕/パワーワード/ファクトチェック/フェイクニュース/ヘルプマーク/保活/ポチる/ポリコレ/マウンティング/寄せる〔=対象に合わせる〕/リアタイ/わちゃわちゃ

今年の新語感」の記録のため、書き残しておきます。

 

▼「風味」の語釈に使わせていただいた辞書の方々
新明解国語辞典 第七版

新明解国語辞典 第七版

 
三省堂国語辞典 第七版

三省堂国語辞典 第七版

 
三省堂現代新国語辞典 第五版

三省堂現代新国語辞典 第五版

 

 

▼リスペクト

lexicography101.net

*1:イベント会場での募集もあったそうです

*2:というか、「『今年の新語』における"『三省堂現代新国語辞典』風"風」です。以下同じ

*3:「どこ行こっかな。ギガといっしょに。」(ソフトバンク)、「ギガでたっぶり、だぞっ」(UQコミュニケーションズ)など

*4:クラウドコンピューティング」の略

*5:飯間浩明NHKカルチャーラジオ 文学の世界 国語辞典のゆくえNHK出版,2017 p.113

*6:2017年12月2日現在

*7:三省堂国語辞典』第7版