2019年3月4日、辞書クラスタに衝撃が走った。
iOSにおける辞書アプリのトップメーカーである物書堂から、同社製のすべての辞書アプリを統合した「辞書 by 物書堂」がリリースされたのである*1。
物書堂製の辞書アプリはUIが非常に優れており、使っているだけで悦楽に酔うほどであった。提供されている辞書も、国語では『三省堂国語辞典』や『精選版日本国語大辞典』、英語では『ウィズダム英和辞典』や『オックスフォードアカデミック英英辞典』などといった定評のあるものばかり。ところが昨年7月、これら複数の辞書アプリを統合し、辞書のコンテンツはアプリ内課金によって販売するようApple社側から要請されている事実が明らかになった*2。
複数辞書の串刺し検索が可能になるなどのメリットはあろうが、それまでの使い勝手のよさが損なわれるのではないかという不安もあった。
杞憂~~~~~~~~~~!!!!!!!
べんり~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!
もう、この世にある全部の辞書を搭載してほしいと思ってしまうほどの便利さであった。
ますます使い勝手がよくなった物書堂の辞書アプリの魅力を、頼まれてもいないのに書きたいと思います。
便利で楽しい串刺し検索
「串刺し検索」とは、複数の辞書で同時に検索を行う方法のこと。電子辞書の端末機で「複数辞書検索」などと呼ばれているものと基本的には同じです。
複数の辞書コンテンツを購入していれば、特に設定をすることなく「検索」タブから串刺し検索が行えます。
これまではいちいちアプリを切り替えて検索していたことを思うと、この手軽さといったらありません。戻れねぇ……。
表示される辞書の順番は、「その他」メニュー内の「検索の優先順」から設定できます。
◎Tips◎ 右側のスクロールバーで辞書間を移動
検索候補が多いと、優先順位の低い辞書の検索結果が見えません。こんなときは、右側の点で示されているスクロールバーをタップもしくはスワイプすれば、すぐに別の辞書の検索結果の頭へジャンプできます。
◎Tips◎ 「見出」「慣用句」「用例」を適切に切り替える
串刺し検索は、辞書ごとのクセを多少把握しておくとストレスなく使えます。たとえば、ある語句を単語として見出しにするか、成句として収録するか、それとも用例の中で示すかは国語辞書によって異なっています。このため、「見出」の検索では表示されなかった語句でも、「慣用句」「用例」のタブに切り替えれば、ちゃんと収められていることがわかるということがあります。
『三省堂国語辞典』には「愛の鞭」が載っていないのかと思ったら……
慣用句として収録されているのでした。
『新明解国語辞典』に「かゆい所に手が届く」は載っていないのでしょうか。
いいえ、用例として説明されていました。
「見つからない」と思ったら、「見出」「慣用句」「用例」のタブを切り替えてみましょう。
◎Tips◎ 表記揺れに気をつける
表記の揺れにも注意が必要です。主に漢字とカタカナの表記で問題になります。
「関わらず」で引いても『三省堂国語辞典』しか表示されませんが……
ひらがなの「かかわらず」で検索すればすべての辞書が表示されました。
漢字であればひらがなに開けばよいのでそこまで苦労はしませんが、カタカナとなると厄介です。
「コンピューターウイルス」の検索結果と、
「コンピュータウイルス」の検索結果は違ってしまいます。
表記揺れの起こりやすい長音(ー)や撥音(ッ)の有無、「ティ」と「チ」、「エイ」と「エー」、「オウ」と「オー」などは意識しておく必要があります。
また、連濁の有無などにも注意を払う必要があります。
「あまかける」は『新明解国語辞典』には無いのかと思ったら……
「あまがける」の形で載っていました。
ある語が見当たらないときには、「他の形で載せているのかも」と考えるクセもつけておきましょう。
実用性を増した「パターン検索」
物書堂の辞書アプリには、以前から「パターン検索」と命名された検索方法が備わっていました。これは正規表現を用いた検索方法で、カシオやシャープの電子辞書では「ワイルドカード検索」とか「ブランクワード検索」と呼ばれているものが(その一部に)相当しますが、機能は物書堂製アプリのほうが上。これがどえらい面白いのです。
「パターン検索」は、「アナグラム検索」と、文字列の一部を伏せた状態での検索に大別できます。
検索バーの左の星印を選択すると、「パターン検索」がオンになります。この状態で文字を入力すると、まず「アナグラム検索」が発動します。
「かごしま」を並び替えると「ごまかし」になることがわかります。それがどうしたことば遊びやなぞなぞに使えそうです。
「パターン検索」をオンにした状態で、キーボード上部に表示されている記号を入力すると、それが任意の文字の代用を果たしてくれます。穴埋め検索ができるということですね。
それぞれの記号の意味と検索結果の例は右側の歯車マークから確認できますが、ここでも紹介しておきます。
*:ゼロ文字以上の任意の文字/「あ*ま」で「あま」「あいま」「あめだま」などが見つかる
?:任意の文字/「あ?ま」で「あいま」「あたま」などが見つかる
@:任意のカナ/「愛@@」で「愛する」「愛しい」「愛でる」などが見つかる
#:任意の漢字/「一#一#」で「一期一会」「一長一短」などが見つかる
(..):グループ/「(おみ)たま」で「おたま」「みたま」などが見つかる
たとえば、「#寿」と検索すれば、「寿」で終わる漢字2字の熟語を一覧できます。長寿の祝いの名称がずらっと並ぶというわけです。
読みがわからずキーボードで入力できないが、手書き入力するのも面倒くさいという漢字をとりあえず#で置き換えれば、時短にもなります。
もちろん、「*ま@@て?」のように、複数の記号を組み合わせることもできます(この例だと「困り果てる」「マタニティー」「悪魔の辞典」などが見つかります)。クロスワードパズルを解いたり作ったり、韻を踏むことばを探したり、しりとりの対策をしたりと、いろいろなことに使えます。
串刺し検索ができるようになった今、何より実用的なのは、前章で紹介した表記揺れによる問題をある程度解決できる点です。
たとえば、「コンピューターウイルス」の例であれば、「コンピュータ*ウイルス」と検索することで、長音があるものもないものも同時に表示することができるというわけです。
丸かっこを用いるのも有用です。「あまかける」の例ならば、「あま(かが)ける」と入力すれば、「あまかける」と「あまがける」が両方とも検索されます。
「こんぐらかる・こんがらかる・こんがらがる」のように、語形が複数あって、どれが見出しになっているのかわからない語を検索するとき、普通ならば何回かの検索を試さねばなりません。パターン検索を使えば、「こん(がぐ)ら(かが)る」で一発です。
ただし、「ティ」と「チ」を同時に検索するような方法は用意されていません。「(ティチ)」は、「テあるいはィあるいはチ」を意味してしまいます。「アーティスト」と「アーチスト」を同時に表示したければ、「アー(テチ)*スト」などと検索することになります。
他の辞書へのジャンプも軽快
串刺し検索といっても、それが可能なのは「国語」「漢和」「英和・和英」などのカテゴリ別です。これらも一気に串刺しで検索ができるとありがたいのですが、検索の種別が異なったりしているためか、なかなかそうもいかないようです。
それをある程度補ってくれるのが、タイトルをタップすることで別の辞書の同じ項目へジャンプできる機能です。これはカテゴリをまたいでジャンプできるのです。
実にスムーズに辞書間を移動できます。
アルファベットの見出しでも同様です。複数の言語で同じ綴りをもつ語を横断できるのはもちろん、国語辞書の、それを原語とする項目へもジャンプできます。
ただし、表記揺れの都合で、これがうまく働かない語もあるようです。先ほど挙げた「かかわらず」などがそうです。万能とは考えず、場合によっては個別の検索も試す必要があります。
履歴の「頻度」で学習がはかどる
統合アプリの新機能のひとつとして、その語を過去に何回調べたかが記録されるようになりました。「履歴」メニューを「頻度順」の表示にすると、右端に数字が表示されているのがわかります。
『精選版日本国語大辞典』で3回も「エレベーター」について調べているのは、今読んでいる古い本に何度かエレベーターが登場して、そのたびに「エレベーター」という語の初出年を確かめているからです。もう覚えました。1890年です。
これは外国語学習で本領を発揮するだろうと感じています。紙辞書を使った外国語学習法として、ことばを引くたびにその語に印をつけておき、何度か参照したことばを重点的に覚えるとよいという方法を聞いたことがある人もいるでしょう。検索回数の表示によって、この学習法は半ば自動化されたということができます。
◎Tips◎ 履歴からブックマークへ
履歴の「編集」メニューを開き、項目にチェックを入れ、右下の本マークをタップすると、それらの項目を手早くブックマークに登録することができます。
◎Tips◎ iPhoneとiPadで履歴を同期
「設定」の「ブックマークと履歴を同期」をオンにしておけば、複数のiOS端末でこれらが同期されます。調べた回数もちゃんと合算されています。
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※本記事は2019年3月13日現在の仕様にもとづいています。その後のアップデートで変更等があるかもしれませんので、ご留意ください。
▼おすすめ本。英語の辞書アプリの使い方が具体例とともに詳述されています。

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*1:「角川類語新辞典」ほか一部は今後のアップデートで統合予定。2019年3月13日現在
*2:物書堂 | これまでとこれからの物書堂 〜 App Store 10周年によせて https://www.monokakido.jp/campaign/tenth-year-anniversary.html