国会図書館のメシ事情 食堂閉店後どうなったのか
破局は唐突に訪れた。国立国会図書館東京本館6階の食堂が、2020年10月20日をもって営業を終えてしまったのだ。
発表されたのは10月14日。あまりにも急だ。私たちには別れを惜しむ時間も与えられなかった。食堂で過ごした日々の思い出が脳裏をかけめぐる。図書館カレー、やけに彩度の高い食品サンプル、小鉢は別会計の謎システム——。
哀傷切なるものもあるが、国会図書館から食事ができる場所が減るのは単純に不便だ。2021年3月末、国会図書館に行く用事があったので、食堂事情がどうなってしまったのか確認してきた。
新型コロナウイルス対策のため、2021年4月現在、国立国会図書館東京本館は抽選予約制による入館制限が実施されている(最新の状況については公式サイトを参照されたし)。平時のようにふらっと訪問できなくなっているのには難儀するが、この状況なので致し方ない。
幸い予約がとれた。食堂が閉店して以降は行っていないので、久々の訪問となる。
最寄駅は永田町駅である。有楽町線ホームの新木場寄りの果てにある階段・エスカレーターを使うのが便利だ。
健康のため階段をのぼる。うおおおおおおおお!!!!!
2番出口を出ると国会図書館はもう目の前だ。若葉のまざり始めた桜が歓迎してくれる。
途中、入り口っぽさが醸し出された場所があるが、これはトラップだ。真のゲートはもう少し先にある。
到着すると、事前予約が必要である旨の注意書きがあちこちに掲出されていた。たいへんな時代である。
手指消毒、検温、予約の確認を済ませ、ロッカーに荷物を預けていざ入館である。館内に持ち込めるものは限られており、手荷物は備え付けのビニール袋に入れる必要がある。
そいや!!!!
入館ゲートをくぐったら、すぐさま自分のスマホで国立国会図書館オンラインにアクセスし、事前にカートに入れておいた資料の申込手続を済ませる。
もちろん館内のPCからも申込手続は可能だが、私は効率厨なので、椅子に腰掛け、入館カードをリーダーに置き、ブラウザを立ち上げてパスワードを入力し……なんていうまどろっこしいことはやっていられない。最速で資料を借り、最速で退館する。これが俺のやり方だ。
資料の到着までには通常30分ほどを要する。この間に食事をするのが効率的だ。さっそく6階の食堂に向かう。
食堂は閉店してしまったが、持ち込んだ弁当などの飲食スペースとしては開放されているという。さらに、その場で弁当も販売されているらしい。待ってろ弁当!
食堂に入ると、入り口のそばに、明らかに弁当を売るためのスペースがあった。そのへんにあった机を持ってきて、机と天井の間に渡した突っ張り棒に飛沫防止のビニールを張った、急ごしらえ感の溢れ出る素敵な空間だ。「550円」の値札もある。しかし、そこに弁当の姿はなかった。
売り切れだ。
食堂内のテレビに目をやると、ちょうど『おちょやん』が始まったところだった。12時45分。昼休みも終わろうというこの時間には、弁当は売り切れてしまうらしい。
新しい弁当は逃してしまったが、飢える心配はない。食堂の隣の売店でも弁当やおにぎり、サンドイッチ、カップ麺などの軽食が買えるし、本館3階と新館1階には食事ができる喫茶店もある。
というわけで、売店でちらし寿司とマス寿司おにぎりを購入し、食堂でいただくことにした。のんびり食事をしながら資料の到着を待つとしよう。食堂はすいていて、4人がけのテーブルを一人で専有できる。飛沫防止のパーティションも各テーブルに備え付けられていた。
ちらし寿司は値段のわりにおいしい。
……えっ!!!!!
早い!!!!!
いつもは資料の到着までは30分ほど待たされるのだが、来館者が少ないからなのか、申し込みからわずか9分で資料が到着したとの知らせが入った。早すぎる。
ちらし寿司をかっこみ、おにぎりはあとで食べることにしてビニール袋につっこんだ。このあと、資料の複写の間にまた待ち時間ができるので、そのとき食べることにしよう。
2階に戻り、雑誌カウンターで資料を受け取った。
あっ!!!!
マイクロ資料だこれ!!!!
マイクロ資料とは、簡単にいうと本をめちゃくちゃ小さく撮影してフィルムに焼き、専用の機械で拡大して読む資料のことである。紙の合本を渡されるものと思い込んでいて、ちゃんと確認していなかった。
マイクロ資料を複写するときは、コンピュータを使って自分でコピーしたい範囲を指定する。その足でプリントアウトカウンターに行けば、それをすぐに印刷してもらえる。だから、通常の冊子体資料の複写と違って、ほとんど待ち時間が発生しない。これはつまり、マス寿司おにぎりを食べる隙がないことを意味する。
すぐ印刷してもらえるといっても、通常2~3分くらいは待たされるのだが、今回は申し込みをして待機用のベンチに座ろうと腰を下げた瞬間に呼び出された。待ち時間、スクワット1回分である。
マス寿司おにぎりを持って退館し街に繰り出すのも何なので、食堂に戻って食べてしまうことにした。
こんどは何の待機でもない、純粋な食事時間である。用事を済ませたという安心感が、よい調味料になってくれた。うまい。
ちょっと調理場を覗いてみると、澄んだ空気の中、器具が整然と並べられていて、スタッフがさっき片付けて帰ったところですよと言われても信じられそうなくらいだった。
さらば国会図書館! こんどは弁当食うよ!
……翌日。
私はまたここにいた。
運良くこの日も予約ができていたので、2日連続国会図書館をキメることにしたのだ。前日に調べ損ねていたこともあったし、何より弁当も気になる。
昨日の過ちは繰り返さない。12時前に到着し、またしても自身のスマホで資料の申し込みを済ませると、すぐさま6階へ向かった。
食堂には、ソーシャルディスタンスを保った数人の列が形成されていた。その先には弁当の山が!
失礼して後ろから覗かせてもらうと、メンチカツ定食、ゴーヤチャンプルー定食、豚丼など5種類ほどの弁当が販売されていた。価格は550円均一らしい。良心的な値段だ。
食堂内に給水器などは見当たらない。飲み物がほしければ、館内の自動販売機や売店で購入するか、持参するしかないようだ。食堂内にも3台の自販機がある。
さて弁当を買うか、とも思ったのが、実態を目の当たりにできたら満足してしまった。それより今日は、本館3階の喫茶店で食事としゃれこみたい。
国会図書館には何度も来ているが、食事はいつも食堂でとっていて、喫茶店を使ったことはなかった。せっかくなので、こちらでのランチも味わってみたかったのである。
本館の喫茶店は「ノースカフェ」という。日替わりランチは650円とこちらも良心的な価格。はじめにレジで食券を購入する方式だ。席は満席に近かったが、席間の距離は確保されていて安心できる。
ランチのアジフライ定食とハンバーグカレーから、ハンバーグカレーを選択。スープとサラダもついて満足度が高い。窓からは美しい桜も観賞でき、快適な待ち時間を過ごせそうだ。
カレーはしっかりとした辛みがあって、体があたたまるほどだ。身のしまったハンバーグがよく合う。スープには卵と鶏肉がたくさん……
早い!!!!!
そそくさと飯を平らげ、必要な調べ物をして帰路についた。こんど来るときは新館1階の喫茶店を使ってみるとしよう。
著書が刊行されました。よろしくお願いします。
*1:構内図 | 永田町駅/Y16/Z04/N07 | 東京メトロ https://www.tokyometro.jp/station/nagatacho/yardmap/index_print.html 2021年3月31日閲覧