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四次元ことばブログ

辞書と言葉に関するあれこれを、思いつくままに書き記しておくことにしました。

スーパーの「サッカー台」は「作荷台」なのか

語誌 国語辞書

サッカー台」という言葉があります。スーパーマーケットなどにある、購入した商品を袋詰めするための作業台をいいます。まあ、業界用語です。「サッカー」は”sacker”で、「袋詰めする人」という意味ですね。「指サック」の”sack”です。

 

……とずっと思い込んでいたのですが、先日「作荷台」と書かれた掲示を発見しました。

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(2016年7月16日 ドン・キホーテ吉祥寺駅前店)

 

私はこの表記を初めて目にしたもので、「なんと上手い当て字だ」と感心したのですが、この「作荷台」という表記も、どうやら広く使われているようです。知りませんでした。

 

こうなると、「作荷台」のほうが古くからある表記だという可能性も考えねばなりません。もし「作荷台」のほうが古ければ、私は長らく勘違いをしていた愚者だと認めざるを得ません。果たして「サッカー台」と「作荷台」、どちらが先に現れたのでしょうか。

 

 Wikipediaは信用ならない

Wikipediaにはこの項目が立っていて、由来について言及があります。

作荷台と英語のサッカーから派生したサッカー台が混同されているとの説と、作荷台はサッカー台の当て字であるという説があるが、いずれも事実かどうかは定かではない。

とのことです(2015年7月11日21:04版)。ただ、この一つ前の版では、「作荷台」のほうが本来で、”sacker”由来説は誤りだと断言されています。いずれにせよ、根拠もなく、議論がされた形跡もないので、全く信用に値しません。

 

辞書はどうか

国語辞書でこの語を載せているのは、見た限り『デジタル大辞泉』だけのようです。2012年に刊行された書籍版にはありませんので、それ以降のデジタル版の更新で追加された語と思われます。

サッカー-だい【サッカー台
《sackerは袋詰めする人の意》スーパーマーケットなどで、購入済みの商品を袋に詰めるための台。
[補説]「作荷台」と当てて書くこともある。*1

これを読むと、「サッカー台」が本来で、「作荷台」は当て字だというふうに取れます。ただ、『デジタル大辞泉』は「銀ぶら」の語源に「銀座でブラジルコーヒーを飲む」と書いた後、誤りと認めたのかこっそりその記述を消した過去があるような辞書です。これも簡単に信じるわけにはまいりません。

 

「サッカー」であれば、載せている辞書はあります。
大辞林』には

小売店で、袋詰めをする人。*2

とあり、『三省堂国語辞典』第7版は

商品をふくろづめにする〈こと/人〉。「スーパーマーケットで―のアルバイトをする」

と説明しています。

 

調べた範囲ではこんなところですが、載せている辞書は少数派といえます。しかし、「作荷」「作荷台」のほうは全く見当たりませんでした。業界用語だからといえばそれまでですが、「サッカー」のほうが市民権を得ているという間接的な証拠にはなるでしょう。

 

隠語・業界用語を集めた『集団語辞典*3という辞書があります。ここにも「サッカー」の見出しがございまして、

《スーパー》レジで商品を袋に入れる仕事、係。

とあります*4。一方で、「作荷」の見出しはありませんから、やはり「サッカー」のほうがメジャーであると言えそうですね。

 

カタカナ語の辞書では、『カタカナ外来語略語辞典』第5版(自由国民社,2013)と『コンサイスカタカナ語辞典』第4版(三省堂,2010)が「サッカー」を載せています。後者には〈現〉マークが付いており、戦後の借入であると明示されています。

 

メーカーのカタログではどうか

先に紹介したWikipediaには、「スーパーの業務文章、什器メーカーのカタログ、店内に掲示される客用の文章では作荷台とサッカー台のいずれかまたは両方の表記が見られ、統一されていない」とあります。本当でしょうか。業務文書と店内の文章を確認するのは簡単ではありませんが、カタログはネットで見られそうです。

 

とはいえサッカー台のメーカーなど心当たりがありません。『会社四季報』を繰ったり、Google先生にお伺いを立てたりして、店舗什器を製造しているらしいメーカーを選り抜き、Webカタログを見てみました。

 

河淳、三協立山、棚橋工業、中日販売、中込製作所のカタログを確認できましたが、表記はすべて「サッカー台」で、「作荷台」はありませんでした。「作荷台」などで検索してみても、店舗什器メーカー公式のカタログは見つけられませんでした。当然ネットで見られるカタログが全てではないでしょうが、「サッカー台」のほうが優勢と思われます。

 

各社のカタログを繰っていて知ったのが、「チェッカー台」の存在です。下は名古屋市の商品陳列台専門メーカーである中日販売株式会社のカタログ*5の見開きです。

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「チェッカー台」が「サッカー台」と対になっていることがわかります。


「チェッカー」は

〔スーパーなどの〕レジスターにいる勘定係。

のこと(『三省堂国語辞典』第7版*6)。「チェッカー台」の存在は、「サッカー台」が本来の形だという証拠にはならないにしても、対になって使われることで「サッカー台」が標準的とみなされる理由の一つにはなっているでしょう。なお、「チェッカー台」には他に「レジ台」という呼び名もあるようです。

 

新聞・雑誌ではどうか

G-Searchが提供する「新聞・雑誌記事横断検索*7」で、「サッカー台」と「作荷台」ではどちらの表記が多いか調べてみます。

 

結論から書きましょう。「サッカー台*8」は108件、「作荷台」は5件です。「サッカー台」派が圧倒的に優勢です。

 

「作荷台」の例で最も古いのは、「毎日のレシピ紹介 無料月刊紙を創刊─静岡の広告会社ピーエーシー」という記事。静岡新聞2006年3月29日 朝刊25頁のものです。データベースの収録範囲からすれば、いかにも新しいですね。料理レシピのフリーペーパーの静岡版が創刊されたという内容で、このように使われています。

四月創刊号は約百店舗で配布し、レジを通過した後の作荷台に置く。

 

一方の「サッカー台」で古いのは「日通工、制御機能つきPOSシステムを発売。中小規模量販店向け」、日刊工業新聞1987年10月27日8頁です。

日通工(社長高橋哲次氏)は中小規模量販店向けPOS(販売時点情報管理)システム「SHOPACE1000=写真」を十一月一日から発売する。価格はPOS本体(カストマーディスプレー、オペレーションディスプレー、キーボード、五インチフロッピーディスク、カードリーダー、レシートジャーナルプリンター、キャシュボックス)、固定スキャナー(カスタマーディスプレー、スキャナーキーユニット)、スキャナー専用サッカー台で百八十万円。

180万円するシステムのサッカー台、見てみたい。

 

流通・食品の専門紙誌に例が多いのも特徴で、「日本食糧新聞等3紙」に23件、「食品商業」に20件、「ダイヤモンド・チェーンストア」に19件、「販売革新」に6件のヒットがあります。

 

もう結論を出してもよろしいでしょうかね。「サッカー台」と「作荷台」では、「サッカー台」のほうが古く、業界では優勢、一般でも多数派と思われます。「作荷台」は「サッカー台」由来の当て字の可能性が濃厚です。

 

サッカー台」はいつごろからある言葉か

さて、「サッカー台」のほうが「作荷台」より古く、したがって私は結果的に愚者ではなかったことが判明したところで、「サッカー台」がいつごろ使われ出した言葉なのか、調査の手を広げます。ある言葉が文献に現れる最初の例を「初出例」といいますが、辞書好きというのは必要以上に初出例を気にする傾向があるのです。

 

三省堂国語辞典』(以下、三国)は、新語の採録に定評があり、ある語がどの版から立項されているかを調べると、その語が一般に定着した時期を推し量ることができます。なぜ三国が新語に強いかといいますと、見坊豪紀(けんぼうひでとし)という辞書界で名を知らぬ人のいない辞書編纂者が、あらゆる種類の文献や資料から、新語を中心とした言葉の用例を集め続け、この三国に反映させていったからであります。

 

三国に「サッカー台」はありませんので、「サッカー」について検討しましょう。「サッカー」が三国に立項されたのは、1992年に出た第4版からです。第3版は1982年の刊行ですから、この間に「サッカー」の語が定着をみたと判断されたということでしょう。先に挙げた「日刊工業新聞」の例は1987年で、みごと符合します。「サッカー台」より「サッカー」のほうがずっと古い言葉だというようなことは無さそうです。

 

では、「サッカー台」の、1987年より古い例はないのでしょうか。

 

ありました。「日経流通新聞」1983年1月27日17頁の「新製品」欄での特集、「特集チェックアウトカウンター 使いやすさを前面に レジ台の高さ調節式も」に登場します。

内田洋行〔略〕の三四九-七〇〇〇シリーズ(写真①)は、レジスターを置くレジ台と買い物かごを置くサッカー台、レジ前ゴンドラ、サインポールを組みあわせたセットで標準小売価格十七万八千円。サッカー台自体は低くしてその上にかごを乗せる傾斜台を設置、サッカー台の角も落として顧客がぶつからないようにしている。

「レジ前ゴンドラ」や「サインポール」もあまり聞き慣れないので目が泳ぎますが、「サッカー台」が連呼されています。

 

この記事には、カタログを確認した中日販売、棚橋工業も含め、複数メーカーのサッカー台の新製品が紹介されています。以前からサッカー台を製造していた企業が大半でしょう。社内には当然、何らかの呼び名があったと思われます。「サッカー台」も当然使われていたでしょうし、それ以外の呼称もあったかもしれません。日本でスーパーマーケットが浸透したのは1960年代。80年代以前の古い例も、どこかに眠っていそうです。

 

まとめ

スーパーマーケットなどで、購入した商品を袋に詰める台を「サッカー台」あるいは「作荷台」という。「サッカー台」のほうが古くからある言葉だと思われ、1980年代に例がある。「作荷台」は当て字だろう。

*1:iOSアプリ「大辞泉」(HMDT)ver.3.6

*2:iOSアプリ「スーパー大辞林3.0」(物書堂)ver.4.0.3

*3:米川明彦,2000年,東京堂出版

*4:この辞書は豊富な実例が特徴なのですが、残念ながらこの語には例がありません

*5:Chunichi総合カタログ Vol.01 CREATE&MANUFACTURE http://www.chunichi-co.jp/catalog/SougouCatalog_vol.1/index.html#page=509 2016年8月29日閲覧

*6:「サッカー」を載せていた『デジタル大辞泉』『大辞林』には「チェッカー」はありません。「サッカー」ほどは一般的でないという判断でしょうか

*7:http://business.nifty.com/gsh/RXCN/

*8:「テーブルサッカー台」と「サッカー台湾」を除いた