四次元ことばブログ

辞書と言葉に関するあれこれを、思いつくままに書き記しておくことにしました。

『現代国語例解辞典』を推薦する

2016年11月、待ちに待った小学館現代国語例解辞典』の4度目の改訂がなされました。数年前から改訂の噂は聞こえていましたが、気づけば前回の改訂から10年も経っています。

 

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現代国語例解辞典第5版。すてき

 

現代国語例解辞典』に出会った日のことは今でも覚えています。あれは私がまだ国語辞書を集めはじめる前のことでした。

 

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辞書に「主観」は不要……でも、そもそも「主観」って何?

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海くん「僕たちって矛盾した存在ですよね」

 

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ヒロシ「ああ。語釈に個人的な感情はいりません。しかし」

 

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泉くん「客観的すぎても個性がなくなっちゃう」

 

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リン太「一体どうすりゃいいんだ!」*1

 

一体どうすりゃいいんでしょうか。

 

*1:以上の画像はアニメ『舟を編む』第7話「信頼」よりキャプチャ。舟を編むAmazonビデオ-プライム・ビデオで 

http://amzn.to/2l2b675 2016年12月7日閲覧

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(おしらせ)「マネ会」様に寄稿しました

サイバーエージェント完全子会社のCyber SS様が運営する、「みんなでお金について考える」メディア「マネ会」にコラムを寄稿させていただきました。

 

hikakujoho.com

 

古い新語辞典(古新聞の仲間みたいなものです)からお金にまつわる言葉をピックアップしてみたという記事です。どうぞよろしく。

辞書マニアによるアニメ『舟を編む』第6話感想と解説。『言海』あれこれ

辞書編集部の両輪は崩れかけ、『大渡海』編纂に暗雲が立ち込める――アニメ『舟を編む』はいよいよ第6話、物語は大きなターニングポイントを迎えます。今週も蛇足的解説を施してまいりたいと思います。

 

※以下、アニメ本編の画像はAmazonプライム・ビデオ『舟を編む』第6話「共振」*1をキャプチャしたものです。

 

辞書編集部と馬締の『言海

今回は大槻文彦の『言海』がフィーチャーされた回でした。今更解説するまでもないかもしれませんが、『言海』は最初の近代的国語辞書とされる大著です。文部省主導で編纂が始まったのが1875年。1886年にひとまずの完成を見ますが、文部省からは出版されず、その2年後に原稿が下げ渡されます。大槻は結局『言海』を自費で出版することとなり、最終校正のさなかに妻子を亡くす不幸に見舞われながら、1889年から1891年にかけ4分冊として刊行するに至ります。作業はほぼ独力で行われました。

 

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▲辞書編集部の『言海

 

言海』には様々なバージョンがありまして、大形本(四六倍判)、小形本(菊半裁判)、中形本(四六判)、寸珍本(四六半裁判)が知られています*2

 

*1:舟を編むAmazonビデオ-プライム・ビデオで http://amzn.to/2l2b675 2016年11月23日閲覧

*2:境田稔信(2003)「明治期国語辞書の版種について」,飛田良文ほか編『明治期国語辞書大系 書誌と研究』大空社

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辞書マニアによるアニメ『舟を編む』第5話感想と解説。学習辞書の改訂ペース

多事多端につき更新が遅くなってしまいました。アニメ『舟を編む』の第5話が放送されてから6日も経っています。こういうのは内容に凝るあまり本放送に後れを取ると更新が億劫になってしまうものです。今回は短くまとめたいと思います。

 

※以下、アニメ本編の画像はAmazonプライム・ビデオ『舟を編む』第5話「揺蕩う」*1をキャプチャしたものです。

 

学習辞書の改訂ペース

大暴れをして上層部に睨まれた辞書編集部が、『大渡海』の編纂を続ける条件として突きつけられたのが「去年改訂したばかり」だという『玄武学習国語辞典』(以下、『玄学』)の改訂でした。

 

辞書は刊行されたそばから改訂が始まるとはよく言いますが、出版社で具体的な改訂作業が行われるようになるまでにはさすがに少し時間が空きます。たとえば、『三省堂国語辞典』の第6版(2008年)が発売されてから、第7版に向けての編集会議が行われるまでには、3年間の「インターバル」があったそうです*2

 

*1:舟を編むAmazonビデオ-プライム・ビデオで http://amzn.to/2l2b675 2016年11月16日閲覧

*2:飯間浩明(2013)『辞書を編む』光文社 p.20-

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辞書マニアによるアニメ『舟を編む』第4話感想と解説。大渡海の「右」と西岡の先見性

辞書編纂を描いたアニメ『舟を編む』の第4話が放送されました。いつも通り、辞書オタクがこのアニメのどこを見ているのか、つらつら書きましょう。

 

※以下、アニメ本編の画像はAmazonプライム・ビデオ『舟を編む』第4話「漸進」*1をキャプチャしたものです。

 

『大渡海』の右

原稿執筆の見本として大写しになったのが「右」の原稿でした。

 

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まず「アク」欄があることに目がいきます。『大渡海』は見出し語にアクセントの情報を備えることを計画しているというわけですね。「平」は「平板」で、簡単に言えば、「右」は、「右が」のように助詞がついたとしても音の高さが下がるところがないということを表しています。

 

中型辞書の三英傑『広辞苑』『大辞林』『大辞泉』のうち、アクセントの情報が示されているのは『大辞林』のみです。もし『大渡海』にもアクセントが掲載されるなら、大きな売りになるでしょう。

 

原稿の本文は、実在する辞書の語釈のパッチワークになっています。当ブログでちょうど「右」の語釈を比較している最中で、その先取りといった感じにもなってしまいますが、それぞれどの辞書にある表現か見てみます。

 

まず、『大渡海』草稿の「右」①です。

 

横に広がる、または並ぶもののうち、一方の側を指す語。北を向いたとき東に当たる側。縦書きの本の偶数ページに当たる側。「明」の「月」のある側。「リ」の字の線の長い側。「―に曲がる・―のほうへ進む」
②「右①」に当たる手。右手。「―投げ」
③前に述べたこと。「―御礼まで」 

 

*1:舟を編むAmazonビデオ-プライム・ビデオで http://amzn.to/2l2b675 2016年11月4日閲覧

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「右」は国語辞書でどう説明されてきたか(3)『岩波国語辞典』以前

前回までに、戦前までの辞書における「右」の語釈を見てきました。

「右」は国語辞書でどう説明されてきたか(1)明治の辞書 - 四次元ことばブログ

「右」は国語辞書でどう説明されてきたか(2)大正~戦前の辞書 - 四次元ことばブログ

 

戦後になり、ようやく「右」の語釈に個性と呼ぶべきものが現れてきます。やはり刊行順にどんどん見てまいりましょう。

 

前回最後に見た『明解国語辞典』(以下、明国)の改訂版が、三省堂が戦後はじめて出した小型辞書です。初版の語釈から「人が」を削り、若干こなれました。

 

みぎ(0)[右](名)(一)日の出るほうへ向かって、南のほう。
――『明解国語辞典』改訂版(1952)

 

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